流通数が少なくエルメスコレクター注目の的のビニールケリー。エルメスの遊び心も感じられるモデルの原点と、特別に販売された歴史を紐解きます。
1996年、エルメスから特別な招待状が世界中のVIPに送られました。その招待状は、世界中の人々に驚きと感動を与えます。それが、エルメスのビニールケリーです。
世界を代表するハイブランド、エルメスは春夏コレクションの招待状を紙の代わりにビニールケリーを送ったのです。
当時は世界各地でテロ行為が多発されており、警戒心が強まっていました。その背景があり、エルメスではショーに参加するゲストに持ち物をビニールケリーに入れるようにと用意したのです。
セキュリティも強化されている中開催されたエルメスの春夏コレクション。ショーを楽しもうと集まったゲスト一人一人にセキュリティチェックを行うこととなり、その時間を少しでも短縮するべく、透明で中の持ち物が一目でわかるビニールケリーをゲストに招待状として送りました。
ビニールケリーは通常のケリーバッグと同じく32cmのサイズ感で、ゴールドの金具が使用されていますがそれ以外はすべてが透明。
そして白文字がプリントされており、「HERMESCOLLECTIONETE 1996」、そして下部にはフランス語で「Kellytransparent(Specialpourcontrôlesécurité!)」、英語では「See through Kelly(セキュリティバッグチェック専用!)」と表記されていました。
1996年の春夏コレクションで一気にその存在を世界中に知らしめた、ビニールケリー。当時はショーに招待されたゲスト限定のアイテムでしたが、その噂が噂を呼び「私も欲しい!」という声が続々と上がりました。
その声を聞いたエルメスは、翌年の1997年から開催されたエルメスの巡回展で新しいビニールケリーを会場限定で発売することを決めたのです。
エルメスの160年を祝うために世界中で開催された「不思議の国のエルメス展」。日本でも開催されました。展示会に訪れたゲスト限定に、97年に前回と同じクリアなビニールケリー、そして98年にオレンジのビニールケリーが販売されます。
展示会でもビニールケリーは話題を呼び、巡回展の集客にも繋がりました。ですが展示会のみの販売であったため、生産量も流通量も極端に少なく、約30年ほど経つ現在でもその姿を見ることは難しいとされています。
新たに誕生したビニールケリーには、以前のものと同じく白文字がプリントされ、上部に「Souvenirdel’Exposition1997(1998)」と展示会の年数によって数字を変えて書かれています。
また共通として展示会のタイトルである「不思議の国のエルメス展」から「不思議の国への旅」と意味する「Un Voyage au PaysdeMerveilles」とプリントされています。
同じくゴールド金具が使用されていますが、なんとサイズは32cmではなく40cmとやや大きめです。ですがデイリーバッグとするならば申し分ないサイズ感であり、キャンバスも大きいほうが自分の世界感をその透明なバッグで表現できます。
今までエルメスはその長い歴史の中で、社会的意識の向上に力を注いでいることは知れ渡っていました。テロ行為の様に、エルメスは過去に起きた恐ろしいことを忘れないため、そして感謝を忘れないため、ビニールケリーに思いを込めたのでしょう。